記事ID12823のサムネイル画像

水冷式エンジン搭載車に装備されている水温計について紹介します

車のエンジントラブルの中では比較的多いオーバーヒート。車は冷却水でエンジンを冷やして適温に保っています。この冷却水の温度をドライバーに知らせる計器が水温計です。しかし最近の車では、この水温計が装備されていない車も見受けられます。車用水温計について紹介します。

車の水温計

 車の水温計は、車に搭載されている水冷式エンジンの冷却水温度をドライバーに知らせるための計器です。

車の水温計

メルセデスベンツ E220 の水温計

 水冷式エンジンにおいては、冷却水温度はそのクルマの適正な走行条件や、適正な燃焼効率を左右する重要な要素です。 水温を把握しないまま走行を続けると、過大負荷によるオーバーヒートを招き、最悪の場合はエンジンが破損する場合もあります。

  逆に、極端にエンジン冷却水温度が低いまま走行を続けるとオーバークールによる排ガス濃度の悪化や、油温不適正による潤滑不良によりエンジン内の摩耗を促進させる結果にもなります。

 走行中のエンジン冷却水温度の急激な変化は冷却系統の重大な損傷を示し、水温の適正な制御が排ガス浄化や燃焼効率の改善にも寄与する事から、現在では多くの車種に水温計が何らかの形で装備されています。

車の水温計

アウディA4の水温計

 計器としての単位は摂氏(℃)ですが、後述の機構上の理由により文字盤にはオーバーヒート状態を示すレッドゾーン表記と、完全な暖機完了を示す中間ライン、冷間でのチョーク作動完了を示す下限ラインの表示以外に数字は記載されていない場合が多いです。

車の水温計

BMW E34の水温計

 車種によっては水温計上限部分に「H」(Hot)、下限部分に「C」(Cold)表記がされているものもあります。一般的には水温計上限部分が摂氏105度前後、下限部分が摂氏70度前後を示している場合が多いとされますが、計器中間付近における指針の動きが必ずしも上限‐下限温度から割り出せる平均数値を正確に示すものではないことに注意してください。

車用水温計の歴史

 車用水温計はその第一の機能として「上昇した冷却水温を早期に察知し、エンジンへのそれ以上の過負荷を避ける」ことを目的として備え付けられるようになった。

 この時代はまだ「エンジンの発熱」と「ラジエーターの冷却能力」の関係が解析されていなかったため、負荷の状況によってはエンジン発熱量がラジエーター冷却能力を上回ることが容易に発生しました。この時代の車用水温計は、主に冷却装置の能力の多寡を測る意味で重要な計器で、「冷却水温の上下に応じて素直に指針が反応すること」が求められていました。

 1970年代に入ると、様々な研究の結果、エンジンの水温及び油温を適正な数値に常時保っておく(ヒートコントロール)事が燃焼効率の改善、ひいては燃費の向上と排ガス浄化に繋がることが解明されました。ラジエーターについても、冷却効率とエンジン性能との比較研究が進み、そのエンジンに最適なラジエーター面積が数値的に算出できるようになった事や、サーモスタットやクーリングファンによってそのエンジンに最適な水温に常時コントロールする技術も発達したことから、純正搭載のラジエーターが通常使用環境において大幅に能力が不足するような事態に直面することは次第に減っていきました。

車の水温計

「フォルクスワーゲン ゴルフ2」の水温計

 この頃から、水温計に求められる機能が初期の「水温をリアルタイムに表記する」ことから次第に変化し始めます。 純正搭載のラジエーターが通常考えられる状況での使用で大幅に能力が不足する事態に直面することが少なくなったため、水温計に求められる機能が「冷却能力の多寡を示す」ことよりも、「最適な燃焼効率を実現するために必要な水温であるか否かを示す」ことの方が重要となってきたのです。

 1980年代後半ごろから、純正搭載の水温計はサーモスタットやクーリングファンで適正に水温調整がなされている領域に指針が達した後は、冷却水温が急激な異常上昇を示さない限りは、それ以上は余り指針が動かないようになりはじめました。

車の水温計

トヨタ ランドクルーザープラド78 の水温計

 1990年代後半頃になると、低価格の車両を中心に指針式の水温計が廃止され、暖機が完了していないことを示す「低水温警告灯」と、オーバーヒート状態であることを示す「高水温警告灯」のみを備えた車両が徐々に増えていき、現在に至っています。

高水温警告灯〔車の水温計〕

 エンジンスイッチをONで点灯し、数秒後に消灯します。エンジンの冷却水温度が異常に上がると点滅し、さらに温度が上昇すると点灯、そのまま走行すればオーバーヒートの恐れがあります。直ちにクルマを停止し、エンジンを冷やしてください。

 主な原因としては、冷却水の不足、漏れ、電動ファンの故障などが考えられます。

低水温警告灯〔車の水温計〕

こちらは低水温警告灯です

オーバーヒート〔車の水温計〕

 エンジンへの過負荷や冷却システムの能力不足・異常等により、冷却が間に合わなくなった場合、適正温度を上回り、オーバーヒート状態に陥ります。これは結果的に、エンジンの性能低下にはじまり、各部に一層の熱変形や潤滑切れが進み、ガスケット抜け、カジリ、焼きつきを起こすほか、火災に至ることもあります。また、重度のオーバーヒートで発生した物理的なダメージは、冷却後に冷却液や潤滑油を交換したとしても回復することはなく、エンジンの載せ替えが必要となります。

オーバーヒート〔車の水温計〕

オーバーヒート

オーバークール〔車の水温計〕

 この現象は主として、水冷エンジンにおいて発生します。 水冷エンジンは、稼働中に発生する熱を冷却水の循環により排出していますが、冷間始動など、エンジンが適切な温度にまで温まっていない場合には、冷却水の経路からラジエーターを外し、エンジン内でのみ循環させて素早くエンジンを温め、熱膨張によってエンジン内の可動部品を適切な寸法とし、燃焼状態も最適化するような仕組みに設計されています。

 しかし、オーバークールにより適切な加温ができない場合は、エンジンストールやアイドリングの不調などの運転性の悪化に始まり、可動部品の寸法が適切とならないことによる部品の早期摩耗をきたします。

 燃料供給が燃料噴射式の場合、エンジン制御コンピュータが冷間始動と判断して燃料を増量し続けるため、運転性の悪化(ATでは飛び出し事故などの危険)や燃料消費の増大など、多岐にわたる不具合が発生する。

冬の高速道路でオーバークール〔車の水温計〕

 冬の路面状況が良い高速道路では、空気は非常に冷たいものの高速走行が可能なので、特に気温の低い夜間はラジエターによるオーバークールが起きることがあります。

 また、オーバークールにより冷却水温度が上昇しない場合、車内の暖房装置やデフロスター(熱源として、温まった冷却水を使用する構造のもの)は適切に機能しません。

 主な原因としては、次のことが考えられます。

【設定温度以下でラジエーター側へ冷却水が流れている】
 サーモスタットが寿命や不具合で開いたままになっている場合や、誤って開弁温度の低いものを組み込んでいる場合など。
【エンジン回転数が低い】
 自動車の使用推奨環境を守っていない(寒冷地仕様でないクルマを寒冷地で使用するなど)。

 予防策としては、
・寒冷地等ではエンジン回転数を高めに保つ
・サーモスタット、冷却液等を使用環境にあったものに交換する
・万が一起きてしまったらラジエーターをダンボールなど厚めの紙で半分ほど覆う
などがあります。

 逆の現象であるオーバーヒートとは違い、ただちに運転を取りやめて修理を行う必要は原則としてありません。

まとめ

 車の水温計について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。時代と共に水温計に求められる機能性は変化し、水温そのものを表示する機能よりも、暖機完了か否かを示す機能の方が重要視されてきたため、近年では水温計を省略し水温表示灯で代用する車両も増えてきています。

 そのためか、水温計は法律上必要な装備とはされておらず、水温計を排除したり、故障により動作しない状態であっても整備不良となることはなく、車検にも影響はありません。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

関連する記事

この記事に関する記事

この記事に関するキーワード

キーワードから記事を探す

TOPへ